Web情報アーキテクチャ(1)読み解く上でのスタンス・基本的な考え方
というわけで、早速
Web情報アーキテクチャ―最適なサイト構築のための論理的アプローチ
- 作者: ルイスローゼンフェルド,ピーターモービル,Louis Rosenfeld,Peter Morville,篠原稔和,ソシオメディア
- 出版社/メーカー: オライリージャパン
- 発売日: 2003/08
- メディア: 単行本
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この本を読み解く前に、この本が出版される=情報アーキテクチャという概念や情報アーキテクトという職業が生まれるに至るまでの過程を振り返ってみたい。
WWWの普及による流通情報量の増大にいち早く気づき、対処が必要であることを提示したのは
それは「情報」ではない。―無情報爆発時代を生き抜くためのコミュニケーション・デザイン
- 作者: リチャード・S.ワーマン,金井哲夫
- 出版社/メーカー: エムディエヌコーポレーション
- 発売日: 2007/05/01
- メディア: 単行本
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この著作では情報の受け手側には「必要な情報をいかに見抜くか」というスキルが必要であることを示し、情報の送り手側となれば「いかにスムーズにユーザが望む結果につながる情報を提供するのか、そのためにはどうすべきか」という問題を提起した。
この本が出版されたのは2000年(邦訳は2001年)であったが、企業がホームページを立ち上げが加速するにつれ始めるのにつれ、ウェブユーザビリティについての議論が華やかとなり、ウェブサイト構築を専門とするコンサルタントが活躍し、私が以前所属した市場調査会社でもウェブユーザビリティに関するユーザー調査をそれなりの数受注していたりした。
ここまでは、あふれ出した情報(ではなく「データ」ですね)」をどう整理して提示しようか、ということが議論されていたのだが、どんどん増加するデータはただ整理するだけではどうにもならない、という事態にまで行き着いてしまう。データの受け手(情報に至る以前なのですから、「ユーザ」ではないですよね)が処理できるデータはもちろん有限。つまり「データ」と「受け手のデータ処理能力」とを比較して、「受け手のデータ処理能力」の方が希少となってしまった、という現実を提示し、情報の送り手側が希少な受け手のデータ処理能力、というよりもその能力を向けるための関心=attentionを獲得しなければならないというのがいわゆるattention economyである。この概念を提示したのはaccucentureのThomas H. DavenportとJohn C. Beck。
- 作者: トーマス・H・ダベンポート,ジョン・C・ベック,高梨智弘,岡田依里
- 出版社/メーカー: シュプリンガー・フェアラーク東京
- 発売日: 2005/09/13
- メディア: 単行本
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こういう議論がされているときにはプッシュ型情報配信サービスが一瞬流行し、あっさり廃れるという事象もおき、SPAMメールの悩みも深まっていたころ。(これは解決していないけれど)結局メール広告はその後市場規模が縮小して落ち着くこととなる。
そして、From Push to Pull (詳しくはこちらの論文を参照のこと)という流れになるわけです。
ここまでの流れを整理したい。
90年代半ばWindows95がブームとなり、インターネットの商用利用が認められるようになりすこしずつウェブ上にコンテンツが出現し始めたころ、NTTディレクトリには日本のあらかたのサイトがリストアップされており、Yahoo!Japanは検索サイトではなくディレクトリサービスを主力とした「ポータルサイト」であった。そもそもウェブ上には情報はおそか、データすらそんなに多くは存在しなかったのだ。まだフジテレビの月9は面白く、新聞は紙に印刷されて宅配されたものを読むのが当たり前、つまりはデータや情報はマスメディアが多くを生産・流通していた、という状況でした。
このころはインターネットユーザ自体がビジネスや学術関係者に偏っている時期であり、数少ないユーザの意識も、いかにして面白い・役に立つコンテンツを見つけ出すかというところにあったわけです。つまり、一見何もない荒野からお宝を見つけ出すような状況であり、整理の必要以前に優良なコンテンツをどう増やしていくかが課題であったといえるでしょう。
いつのまにか主だった企業はウェブサイトを持ち、流行によって主婦までもが電子メールを始め、個人がホームページを作るのがブームになってくるとWWW上のHTMLドキュメントの数は急増する。ネットサーフィンという言葉が一般的になり、一部のユーザもgeocitiesなどを活用して個人ホームページを作り始めます。一般的なユーザ層はウェブによる情報収集に親しみ始めたといったところでしょうか。一瞬あった(低いレベルでの)ウェブにおける需要と供給の一致だったのかもしれません。この時期、情報を整理するのは完全にデータ・情報の供給者側です。
そうこうしてブロードバンドの普及、CMSの発展、Blog/SNSの登場でユーザの処理可能量以上のデータが出回ることとなります。情報爆発はウェブ上だけに限らず、OOH(Out of home media)の開発(トレインジャック、ラッピングバス、街頭ビジョンの普及など)、モバイル広告、フリーペーパーなどを通じてリアルの空間にも及んできます。それに対応してアグリゲーションサイト、Yahoo!・Googleなどのカスタマイズサービス、RSSリーダ・SBMなど、ユーザ自身がデータ・情報を整理するという行動を始めるに至ったという流れがあったのではないかと思います。
というわけで、「Web情報アーキテクチャ―最適なサイト構築のための論理的アプローチ」は実は情報を整理するのは完全に供給者側であった時代に記された本です。(第3版がそろそろ出るみたいですが、、)しかし、ウェブにおける情報分類の包括的理論を打ち立てた本であり、ここにある理論・考え方を踏まえることがまず必要であろうと考えます。かつ、一般的なユーザの意識、リテラシというものをここから読み取ることも可能だと考えます。
改めてフォークソノミー、ソーシャルタギングの研究をするにあたりこの書を読み解く意義は、
- 情報・データの分類という情報アーキテクチャの基礎を理解すること。またその中で活用可能な考え方やフレームワークを抽出すること
- 一般的なユーザの情報接触・活用リテラシレベルに対応した情報の提示・整理における注意点・ポイントを理解すること
であると考えます。